片思い中のあの子からデリバリー


僕、辛井飯夫には夢がある。
僕の夢は、片思い中の会社の同僚、田中さんから手作り弁当をもらうことだ。
田中さんは会社のマドンナ的存在。高嶺の花だ。
そして、僕には日課がある。
昼休憩がはじまる前、少しの間、お祈りをすることだ。
お祈りは、宗教的な意味ではなく、自分の願いを思い起こすためにすることだ。
田中さんが僕のデスクにやって来て、
「辛井さん、私、お弁当を作ってきたんです♡食べてもらえますか?♡」
バレンタインに女子が男子に告白するような、まさにそんなイメージである。

とはいえ、そんな夢や妄想が叶うはずもない。
当然、今まで一度も田中さんから手作り弁当を渡されたことはない。
休憩時間に入ると心の中で「今日もダメか…」とつぶやき、そして落ち込み、出前を頼む。
僕は、そんな悲しい毎日を送っている。
そろそろ出前が届く。そこで少しは気が紛れるかな。
「辛井さん、おまたせしましたぁ♡辛井さんの大好きなカレーです♡」

な…なぜ、田中さんが僕に宅配を!?
そして出前が僕の大好きなカレー!?
僕の大好物だ!

「食べた後のお口の周りは、私が優しく拭いて あ げ る♡」
きっと神様は、僕が毎日田中さんに手作り弁当をもらえるようにとお祈り(正しくは妄想)していたことをお空の上から見ていたんだ…!!
そろそろこの哀れな青年にも夢を見させてあげようと、夢を見せてくれたんだ…!!!!

そう、神様は僕に素敵な夢を見せてくれたんだ。

「なんだ、夢か」
現実に戻った僕は、すぐさまカレーを出前した。
「ピンポーン…」
カレーが届いたようだ。


「た…田中!!??」

「食べた後のお口の周りは、私が優しく拭いて あ げ る♡」

「おまたせしました~。ロースカツカレーチーズWになります~。」

神様…
田中は田中でも、田中違いだよ…
